2025年12月08日
2025年8月18日(月)~8月25日(月)に、ビルドアップ研修を実施しました。
特定非営利活動法人ジャパンハート 創設者 𠮷岡秀人先生、カンボジア事業看護統括責任者 小鯖貴子先生、ジャパンハートこども病院の皆様、貴重な機会をいただき心より感謝申し上げます。
以下、𠮷岡秀人先生、小鯖貴子先生のご紹介、参加学生からのレポートを以掲載します。
𠮷岡秀人先生
特定非営利活動法人ジャパンハート 創設者・最高顧問。小児外科医。
1995年、ミャンマーで海外医療活動を始め、その後、カンボジア、ラオスと活動の幅を広げる。
現在も年間3分の2を海外活動地での医療活動にあてている。
▼特定非営利活動法人ジャパンハートのHPより 𠮷岡先生
https://www.japanheart.org/about/message/

認定特定非営利活動法人ジャパンハート
※2008年にNPO法人格を取得、2011年に認定NPO法人として認定。
※年間700人以上がジャパンハートの海外医療活動に参加。これまで行った無償の医療活動は26万件を超えています(2022年度実績)
▼詳細はこちら
https://www.japanheart.org/
【研修の目的】
デザイン思考を用いたフィールドリサーチ型研修
開発途上国における課題設定を行い、SDGs を踏まえ日本・世界を意識したソリューション提案を考える機会を得る(※2024年の研修目的)
【渡航期間】2025年8月18日(月)~8月25日(月)(8日間)
【研修先】
カンボジア(首都プノンペン)
Japan Heart Childrens Medical Center(ジャパンハートこども医療センター)
【参加者】
引率:ファシリテーター教員 髙橋健人先生
1.曽根 一輝 / 医工学研究科 / D3 / プログラム3期生
2.清水 悠暉 / 薬学研究科 / D4 / プログラム4期生
3.野本 達也 / 医工学研究科 / D2 / プログラム4期生
4.辻 一志 / 医工学研究科 / D1 / プログラム5期生
5.佐藤 桃香 / 医学系研究科 / D1 / プログラム5期生
【レポート】
医工学研究科 曽根 一輝
カンボジアの Japan Heart Children’s Medical Center(JHCMC) にて、2025年8月18日から25日までビルドアップ研修を行った。本研修では、JHCMCでの現場観察を通じて課題を発見し、その解決に向けたソリューションを創出する一連のプロセスを体験した。
グループには医工学、薬学、看護学など多様なバックグラウンドを持つ研究者が集まり、それぞれの専門性を生かした視点で現場を観察できた。グループ内での報告や議論では、多角的な観点から意見を交わすことができ、大変実りの多い経験となった。
特に私はカンボジアにおける検体検査に関心を持ち、現地で実際に行われている検査を見学したり、検査技師の方々と必要な検査について意見交換を行ったりする機会を得たことが貴重な経験となった。現地の医療は常に金銭的制約のもとで行われており、必ずしも最先端の医療機器や検査機器を導入することが最適解ではないという現実を学んだ。地域や利用者によって求められる性能やスペックは異なるため、工学出身の研究者としては「性能の向上」だけを追求するのではなく、「最低限必要なものを、いかに安価に提供できるか」という視点を持つことの重要性を強く認識した。
薬学研究科 清水 悠暉
今回の研修では、カンボジアジャパンハートこども医療センターでの医療現場観察を通して、開発途上国の医療が直面する課題を学び、それらに共感し、解決することを目指しました。その中で100個近い課題を見つけ出し、議論を重ね、最終的に2つの主要な課題に焦点を当てることになりました。印象的だったのは、歴史的背景からくる医療者不足が、知識や技術の伝承を困難にしている状況です。それに関連し、「医療従事者の医療知識の伝達、特に高度な手術やイレギュラーな状況下での判断能力に対する対応力をいかに伝達するか」という課題の抽出に至りました。これは、経験豊富な医療者が少ない環境で、いかに質の高い医療知識と技術を次世代に継承していくかという根深く、また、AIが発達している昨今で、知識をいかに伝承するかという点は他国にも拡張されるような課題へと議論が及びました。もう一つは、医療に対応する物的及び人的リソースが不足する状況にも紐づく、「小児特有の採血の難しさ」に注目した課題です。採血時の手袋の衛生的着用を徹底し、同時に患者さんの身体的負担を減らす方法はないか、という課題から、さらに具体的な解決に向けて深くディスカッションを行いました。
病院外でのカンボジア国内見学では、経済レベルが地域によって大きく異なることを目の当たりにしました。ジャパンハート最高顧問の𠮷岡先生は「医療提供者も患者も経済活動の利用者であり、医療のレベルも結局は国の経済力に大きく依存する」と話されていましたが、私にはこの考察が特に印象的で、その状況や地域差を肌で感じました。同時に、今後のカンボジアが経済発展していく中で、どのような医療が求められるようになっていくのか、現在充足していない部分が経済力によって解決されるのか、ひいては、日本を含む他国において今後どのような医療が求められていくのか、医療そのものの在り方や持続性について深く考える必要があると痛感させられる貴重な経験となりました。
最後に、この貴重な機会を提供してくださったジャパンハートこども医療センター、未来型医療創造卓越大学院プログラム、そのほか本研修にご協力いただいた全ての方々に、深く感謝申し上げます。
医工学研究科 野本 達也
今回、未来型医療創造卓越大学院プログラムのビルドアップ研修に参加し、カンボジアのジャパンハートこども医療センターで研修を行いました。現地では、病棟や手術室を見学し、スタッフの方々にインタビューをしながら、医療現場の課題を探りました。今回特に着目したのは、小児がん患者の採血において血管が細く穿刺が難しいために、何度も針を刺さざるを得ない状況があることです。こうした場面では、患者にとっても医療者にとっても大きな負担となっており、限られた医療資源の中でどのように解決していくかを強く考えさせられました。さらに、手術の場面では、日本から来られた熟練外科医の指導において術中の判断の根拠や考え方が十分に伝わらないことが技術継承の難しさにつながっていると感じました。
個人的に強く印象に残ったのは、ジャパンハート創設者の𠮷岡秀人先生から伺った「医療の発展は医療機器の発展によって起こる」という言葉です。これまで医療といえば医師や看護師といった医療従事者や薬剤開発に注目しがちでしたが、医療機器の重要性について深く考えたことはありませんでした。今回の研修を通して、自分が関わっている医療機器関連の工学分野が医療の発展にとって非常に重要な位置にあることに気づかされ、大きな励みとなりました。
研修ではバイオデザインの手法を用いて観察やスクリーニングを重ね、こうした現場課題を整理しました。最終日には成果を現地の方々に発表し、直接フィードバックをいただけたことも大変貴重な経験でした。今回の研修を通して、途上国の医療現場の厳しさとともに、そこで懸命に働く人々の姿に触れることができ、自分自身の研究や将来の進路について改めて考える大きなきっかけとなりました。
医工学研究科 辻 一志
一昨年や昨年にビルドアップ研修へ参加された方々の報告を拝見し、以前からこの研修に強い関心を抱いておりました。
今回、実際に参加する機会を得て、バイオデザインへの理解や実践的なスキルを習得できただけでなく、非常に多くの貴重な経験を通じて、大きく成長することができました。特に、他の参加メンバーとの協働を通じて得られた気づきや成果は、私一人では得難いものであり、間違いなく自身の成長の大きなきっかけとなりました。
現地に赴くことで初めて理解できることが多くあるだろうと予想していましたが、実際にその通りであり、例えば、私の研究室で開発を進めているデバイスが現地のニーズ解決に活用できる可能性に偶然にも気づけたことは、大きな収穫の一つです。
研修を通じて𠮷岡先生をはじめとするジャパンハートの皆様の信念に触れることができ、また現地講師としてご支援くださった小鯖先生のご経験や想いも研修の合間に伺うことができ、深く共感いたしました。
ここに書ききれないほど本当に多くの学びと気づきがありました。このような貴重な機会をいただけたことに心より感謝申し上げます。
医学系研究科 佐藤 桃香
2025年8月18日から25日まで、カンボジアのジャパンハートこども医療センター(JHCMC)で実施されたビルドアップ研修に参加しました。本研修では、デザイン思考を活用し、現場観察による課題抽出から、その解決策を検討するまでのプロセスを体験しました。渡航前には、書籍やインターネットなどを通じてカンボジアやジャパンハートについて学びましたが、実際にキリングフィールドやトゥールスレン博物館、ジャパンハートの施設を訪問することで、事前の学習だけでは得られない、生の理解の重要性を実感しました。
ジャパンハートでの医療現場見学では、小児がん患者の採血時に血管が細く何度も穿刺している場面に遭遇しました。これは患児にとっても処置を実施する看護師にとっても大きな苦痛であり、解決すべき重要な課題であると感じました。そこで私たちは、血管が細く穿刺が困難な小児患者に対して、血管の位置や走行を把握できる方法があれば、採血やルートキープ時の穿刺を1回で終わらせられるのではないか、というアイデアを考案しました。研修期間内に具体的なソリューションの形にまで到達することはできませんでしたが、課題を発見し、解決の方向性を検討するというデザイン思考のプロセスを学ぶことができたのは大きな成果でした。
今回の研修を通じて、医療資源が限られた環境で求められる工夫や、課題に直面した際に多角的な視点から解決策を検討する重要性を学びました。今後は今回得られた学びを、自身の研究や看護実践、教育に活かすとともに、より安全で質の高い医療を実現するための方法を引き続き探究していきたいです。
