未来型医療創造卓越大学院プログラム

2023年11月28日

レポート成果発表

ビルドアップ研修 / ジャパンハートこども病院にて実施しました _カンボジア(9/24-10/1)

2023年9月24日(日)~10月1日(日)に、ビルドアップ研修を実施しました。
特定非営利活動法人ジャパンハート 創設者 𠮷岡秀人先生、ジャパンハートこども病院の皆様、貴重な機会をいただき心より感謝申し上げます。
以下、𠮷岡秀人先生のご紹介、参加学生からのレポートを以掲載します。

𠮷岡秀人先生
特定非営利活動法人ジャパンハート 創設者・最高顧問。小児外科医。
1995年、ミャンマーで海外医療活動を始め、その後、カンボジア、ラオスと活動の幅を広げる。
現在も年間3分の2を海外活動地での医療活動にあてている。
▼特定非営利活動法人ジャパンハートのHPより 𠮷岡先生
https://www.japanheart.org/about/message/

認定特定非営利活動法人ジャパンハート
※2008年にNPO法人格を取得、2011年に認定NPO法人として認定。
※年間700人以上がジャパンハートの海外医療活動に参加。これまで行った無償の医療活動は26万件を超えています(2022年度実績)
▼詳細はこちら
https://www.japanheart.org/

【研修の目的】
デザイン思考を用いたフィールドリサーチ型研修
開発途上国における課題設定を行い、SDGs を踏まえ日本・世界を意識したソリューション提案を考える機会を得る

【渡航期間】令和5年9月24日(日)~10月1日(月)(8日間)

【研修先】
カンボジア(首都プノンペン)
Japan Heart Childrens Medical Center(ジャパンハートこども医療センター)

【参加者】
ファシリテーター教員 小鯖貴子
1.医学系研究科 張 燁 D3 / 1期生
2.教育学研究科 髙橋 健人 D2 / 2期生
3.医学系研究科 楊 舒涵 D1 / 2期生
4.歯学研究科  笹井 真澄 D3 / 3期生
5.薬学研究科  関森 智紀 D1 / 4期生

【レポート】
医学系研究科 張 燁
事前にカンボジアの歴史、医療状況、経済状況などを調査し、カンボジアという発展途上国の経済医療現状を少し把握しました。しかし一方で、現地のジャパンハート子供病院での実際の医療現場を観察して、医療品供給不足などの厳しい現実にも直面しました。例えば、病院にはCTなどの検査機器が不足しており、患者は検査を受けるために毎回1時間車で他の病院に運ばれる状況もあります。また、糖尿病の薬もわずか2種類しかなく、患者と医療スタッフの両方にとって非常に厳しい状況でした。研修の初日には、現地のニーズを50個以上見つけるための観察を行い、それを15個に絞り込む基準を設けました。2日目と3日目には、現地での観察とインタビューを通じてニーズを検証し、最終的に5つのニーズに絞り込みました。
研修の最終日には、2つの主要なニーズとそれに対する解決策を提案し、プレゼンテーションを行いました。このたくさんのニーズを発見して可能なソーリュウションを提案してプレゼンテーションを行いました。また、チームワーク内で役割分担、コミュニケーション力なども勉強になりました。こういう経験を通じて、デザイン思考を学び、将来実際の現場に応用することができました。この経験を通じて、デザイン思考を学び、実際の現場に応用することができました。同時に、発展途上国の医療経済の厳しさを強く認識し、将来的には自身の研究を通じて役立てることを目指しています。

教育学研究科 髙橋 健人
渡航前の事前準備として、チーム全体のビジョン・ミッションの策定を含めた事前ディスカッションを複数回行った。ビジョンおよびミッションに基づき、医療技術そのものというよりは、教育や業務効率化等のシステムとみなせるものに着目することとした。現場観察を通して、50個以上の事実を観察し、さらにニーズステートメントの作成を行った。その後、ミッションに基づいてニーズステートメントの選定基準を作成し、ニーズステートメントを絞り込んだ。さらに観察事実を明瞭にするための現場観察、インタビュー等を通してニーズステートメントを2つまで絞り込み、ソリューション案のブレインスト―ミングを行った。ニーズステートメントは「医療記録の作成と初期診断を担当する医療従事者にとって、記入や症状の表現が困難な患者から正確に情報を収集するために医療従事者が病歴や服薬情報を迅速に共有する方法」と「外科技術を学びたいカンボジアの医師にとって手術に直接参加しなくても手術を学ぶために専門医によって行われた手術を学ぶ方法」であった。それらをスライドとしてまとめ、現地医療者に対しプレゼンテーションを行った。現地医療者からは、肯定的なフィードバックがあった。
総じて、本海外渡航による研修では、バイオデザイン手法による課題抽出の方法およびニーズステートメントの作成、ソリューション考案など総合的な課題発見・深掘り・解決のプロセスをより深く、体感的に理解することができた。加えて,開発途上国における医療の現状の把握、それらの国においてもバイオデザイン手法を用いた実践が有効であることも理解できた。

医学系研究科 楊 舒涵
研修が始まる前に、我々はいくつかのグループワークをして、カンボジアの医療現状についての資料を共有し、歴史的・経済的要因により、国民の医療に対する信頼が高くないことが分かり、「安心・安全な医療の確立」という長期目標を明確にしました。
研修の初めに、ジャパンハートこども医療センターの小児病棟、成人病棟、外来診察や手術室などの医療現場を見学し、ジャパンハートの医療従事者から基本的な状況を聞き取りました。ジャパンハートは、重篤な病気(特に小児がん)に苦しむ地元の子どもに無償で治療を提供し、患者さんの生存率を大幅に向上させるだけでなく、となりのポンネルー病院では診断・治療ができない患者を直接受け入れ、無料な治療を提供していることが分かりました。
しかし、さらに現場を観察したところ、安定した人材供給の仕組み、医師と患者間のコミュニケーションにおける言語の壁、外来相談の効率の低さ、情報管理の不便さなどの問題を抱えていることが発見しました。ニーズステートメントの方法に基づき、観察された問題点をリストアップし、そのニーズが持続性に寄与するか、ステークホルダーのモチベーションがあるか、低い目標からも始められるかなどに基づいて検討が進められ、最終的には外来診療の患者のカルテ作成・管理と手術室見学の課題が設定されました。現在、カンボジアではスマートフォンや4G通信の普及率が徐々に高まり、電子システムでのカルテ管理や遠隔教育に基づく医師養成などの手段を活用できるようになってきています。また、近い将来、これらの技術がカンボジアでより安心・安全で持続可能な医療システムを構築するのに役立つことを願っています。

歯学研究科  笹井 真澄
カンボジアにあるJapan Heart Childrens Medical Center(以下JHCMC、ジャパンハートこども医療センター)にて、デザイン思考を用い現場観察による課題抽出からソリューションまでを提案するビルドアップ研修(以下BU研修)を終えたので報告いたします。
きかっけは合同メンタリングにて、ジャパンハート創設者の𠮷岡先生からお話を聞く機会があったことです。さらに、「医療現場での臨床教育」、「口腔衛生管理による健康」、「災害保健医療の学びから支援や援助」に興味があり参加にいたしました。
私たちの成果として①How to record information on surgery、②Medical records managementを提案いたしました。このソリューションにたどり着くために短い期間でしたが、カンボジアの未来医療について深く真摯に考えました。
まず初日は、カンボジアの歴史的な背景を学ぶためにプノンペン市内の施設見学へ行き、40数年前のことに様々な想いをめぐらせました。早速、現場観察に入ると、屋外での外来には電子カルテがないので携帯電話で記録や画像を共有し、掛け持ち業務に取り組んでいる姿や支援の器材や薬品の種類などの統一がなく、在庫管理が難しいような様子が見受けられました。
インタビューでは、日本人ボランティアスタッフの中には、半年間は日本で働き渡航費やカンボジアでの生活費を貯蓄し、残り半年間をボランティアしているそうです。また、JHCMC内ではスタッフ間は英語を用いていますが、カンボジア人日本語通訳スタッフもいて、痛みの症状について伝える知識がない患者さんに寄り添い、的確に通訳しようとしていました。医療用語はオペ室のサポート業務などで覚え、将来は日本での就職も希望している方もいました。
さらにJHCMC院長を務める神白医師のお話から、現地ではシャーマンによる伝統療法が大切にされていること、この様な背景にもある日本との様々な相違を伺うことが出来ました。また、岡先生からも無料で医療を届けることの想い、保険医療制度や臨床教育についてのお話を伺うことができました。加えて、ビジネスメンタリングでは日本から志賀先生のアドバイスもいただく機会もありました。
このように仲間と分担し実情把握に努めていましたが、JHCMC内だけではなく、隣接する公立病院との関係性やカンボジアで役立つ課題抽出を意識するようになりました。また当初はNGOの活動は初期支援のみで、将来的にはカンボジア人スタッフで自立する医療を目標にしていると考えていました。しかしながら、日本の医療を提供するNGOとして、必要な国に海外拠点を置き続け共存していくことに大きな価値があることを理解しました。
現地の文化や日常生活に触れたことで、日本では何かと過剰であることが多いと感じ価値観にも変化が生じました。さらに、私が見てきたのはまさに途上経過で、様々な困難に対して切磋琢磨し、技術や知識を習得して得たものを、ここから社会に活かしていくように見えました。そこからは教育の原点についても考えることが出来ました。
今回のBU研修をとおして、実際に現場で感じながら活動をすることの重要性を認識しました。自身のキャリアとしても、この経験から得た視点や考え方と歯科医師としての専門性を掛け合わせ、今後の未来医療に貢献することができるようにさらに尽力いたします。
最後になりましたが、中山先生をはじめ事前研修からのご指導と引率いただいた小鯖先生、一緒に過ごしたプログラム生の皆さん、受け入れてくださったJHCMCの皆さんに貴重な経験をできたことを心から感謝いたします。さらに、準備サポートをしていただいた事務局の皆様や先生方にも心から御礼を申し上げます。

薬学研究科  関森 智紀
今回の研修は、ジャパンハートこども医療センターでの医療現場観察を通して、開発途上国の医療の現状を把握するとともに、現場が抱える課題を発見し、解決策を考え、提案するということを目的としました。実際に、外来診療や手術の様子を見学しながらスタッフの方とお話させていただいたり、ジャパンハート創設者の𠮷岡秀人先生や院長の神白麻衣子先生へインタビューをさせていただいたりしながら研修を進めていきました。
研修を通して私が学んだこと・感じたことで特に印象深かったことが2つあります。
1つ目は、その場所・その時代を捉えたニーズを発見し解決することの難しさです。カンボジアの医療現場は日本とは違うことばかりで、現場観察の中で気がつくこと・目が行くことはとにかく沢山ありました。しかし、現地で働くスタッフと話してみると、日本と違う点が必ずしも問題なわけではなかったり、それよりも優先して解決しなければならないことが別にあったりと、私たちが本当に注目すべきポイントはどこなのかを見つけることがなかなか難しいというように感じました。例えば、日本では当たり前のように使っているような医療機器をカンボジアの病院に導入するという場合に、たとえ金銭的には導入できたとしても、それを活用できるかどうかにはまた別の問題があります。その機器を扱える技師が足りなかったり、トラブルが起きた際に対応できる技術者がいなかったり、物さえあればなんとかなるということではないのです。こうしたことからも、本当に現場のためになる課題解決を行うためには、その場所・その時代で何が求められていて、どういう形であれば受け入れられるのかを正しく捉えることが大切で、そこが難しいポイントであるということを学びました。
2つ目は、日本の医療は決して当たり前のものではない、だが必ずしも正解というわけでもない、ということです。𠮷岡先生との座談会の中で、「病院に行って医療者に感謝したことある?」と聞かれ、改めて考えてみて大変なショックを受けました。なぜなら自分が患者として病院に行ったとき、治療は受けられるのが当たり前だと思ってしまい、医療者の方々に感謝の気持ちを持ったことは無かったことに気付いてしまったからです。国民皆保険で安価ですぐに医療にアクセスできるのが日本の医療制度の良いところですが、治療は受けられて当然、もしうまく行かなければ医療者の責任、といったような雰囲気が漂ってきているという問題点があります。一方で、カンボジアは日本と比べればまだ十分な医療が行き届いているとは言いにくいですが、患者と医療者の関係性という面では、患者は医療者を信頼し、医療者は純粋に患者のために頑張れる、というバランスがまだ取れているというお話を聞き、日本が失いかけているものがまだカンボジアにはあるということを知りました。だからこそ、先進国のやり方をただ取り入れるのではなく、今ある良さを残しながら発展していけるのが理想だと感じました。
今回の研修から得た学びや気付きは、大学院での研究だけでなく、今後私が経験する様々な場面で活かすことができる貴重なものです。このような大変意義深い経験をさせていただく機会を与えてくださいましたジャパンハートこども医療センターの皆さまに心より感謝申し上げます。

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