未来型医療創造卓越大学院プログラム

2024年11月14日

レポート成果発表

ビルドアップ研修 / ジャパンハートこども病院にて実施しました _カンボジア(9/18-9/25)

2024年9月18日(水)~9月25日(水)に、ビルドアップ研修を実施しました。
特定非営利活動法人ジャパンハート 創設者 𠮷岡秀人先生、ジャパンハートこども病院の皆様、貴重な機会をいただき心より感謝申し上げます。
以下、𠮷岡秀人先生のご紹介、参加学生からのレポートを以掲載します。

𠮷岡秀人先生
特定非営利活動法人ジャパンハート 創設者・最高顧問。小児外科医。
1995年、ミャンマーで海外医療活動を始め、その後、カンボジア、ラオスと活動の幅を広げる。
現在も年間3分の2を海外活動地での医療活動にあてている。
▼特定非営利活動法人ジャパンハートのHPより 𠮷岡先生
https://www.japanheart.org/about/message/

認定特定非営利活動法人ジャパンハート
※2008年にNPO法人格を取得、2011年に認定NPO法人として認定。
※年間700人以上がジャパンハートの海外医療活動に参加。これまで行った無償の医療活動は26万件を超えています(2022年度実績)
▼詳細はこちら
https://www.japanheart.org/

【研修の目的】
デザイン思考を用いたフィールドリサーチ型研修
開発途上国における課題設定を行い、SDGs を踏まえ日本・世界を意識したソリューション提案を考える機会を得る

【渡航期間】令和6年9月18日(水)~9月25日(水)(8日間)

【研修先】
カンボジア(首都プノンペン)
Japan Heart Childrens Medical Center(ジャパンハートこども医療センター)

【参加者】
ファシリテーター教員 小鯖貴子
1.張 馨方(経済学研究科)学年D3 / 2期生
2.南 理央(医学系研究科)学年D2 / 3期生
3.平出 恭我(医学系研究科)学年D2 / 3期生
4.小澤 哲(医学系研究科)学年D2 / 3期生
5.衣川 安奈(歯学研究科)学年D3 / 4期生

【レポート】
経済学研究科 張 馨方
今回の研修は、カンボジアにあるジャパンハートこども医療センターでの医療現場観察を通して、カンボジアにおける医療の現状を理解し、現場が抱える課題を発見し、その解決策を考えることを目的としました。
渡航前の事前準備として、チーム全体のビジョン・ミッションの策定について事前討論を行いました。現地に到着した後、外来診療、入院病棟や手術の様子を見学しながらスタッフの方とお話させていただいたり、ジャパンハート創設者の𠮷岡秀人先生や院長の神白麻衣子先生、看護師の藤井祐美子さん、栄養士のティラさん小児科部長の嘉数真理子先生、教育学専攻長期学生インターンの畔上颯馬さんへインタビューをさせていただいたりしながら研修を進めていきました。加えて、ビジネスメンタリングではオンラインで志賀卓弥先生のアドバイスもいただく機会もありました。
現場観察を通して、50個以上の医療ニーズをリストアップしました。その後ニーズステートメントの作成を行いました。さらに現場の再観察とインタビュー等を通して事実を明確しながら、ミッションに基づいてニーズステートメントの選定基準を確定し、ニーズステートメントを2つまで絞り込みました。研修の最終日には、2つのニーズステートメントとそれに対するソリューション考案を提案し、英語でプレゼンテーションを行いました。
さらに、今回のジャパンハートの研修を通して、今後の医療において、NGOの存在はますます重要になる可能性が高いと感じました。国や政府のリソースだけでは不十分な場合、NGOがそのギャップを埋め、医療サービスを提供することが求められます。ジャパンハートのように、寄付や社会的な支援によって成り立つ医療提供のモデルは、国際的にも今後の医療の在り方を示唆しています。特に発展途上国においては、現地政府に依存せず、柔軟で持続可能な形で医療を提供するNGOの役割がますます大きくなると考えられます。
カンボジアの医療現場は、日本とは全く異なる側面が多く、そこから多くの学びと気付きを得ることができました。以上の経験を通じて、バイオデザイン手法による課題抽出の方法およびニーズステートメントの作成、ソリューション考案の提出という一連のプロセスをより深く理解することができました。今後もこれらの学びを活かし、持続可能な医療システムの構築に貢献していきます。

医学系研究科 南理央
この度、特定非営利活動法人ジャパンハートが運営するカンボジアのジャパンハートこども医療センター(Japan Heart Children’s Medical Center)で研修を行う機会をいただきました。渡航前には、研修やインターネット、𠮷岡先生の著書を通じて、カンボジアやジャパンハートについて学びましたが、実際にカンボジアの町や病院を訪問することで、現地での体験がいかに重要かを深く実感しました。
私たちは、バイオデザインの手法を用いて、現地の医療課題を発見し、解決策を提案するために現場観察やインタビューを行いました。その過程で、医療が社会や文化に深く根ざしていることに気づかされました。日本の医療は日本独自の社会と文化の中で発展してきたものであり、それをそのままカンボジアに適用することはできません。したがって、現地の医療現場を観察し、そこで働くスタッフの声を直接聞くことの重要性を強く認識しました。現場の理解が不十分な提案は、相手に対して押し付けになりかねないということにも気づきました。
私たちは2つの課題に対して解決策を提示しましたが、私は特に「ジャパンハートに長期入院する小児がん患者とその家族が、病態や治療を理解するのに困難を感じている」という課題に取り組みました。カンボジアでは、歴史的に西洋医学に対する不信感が根強く、また教育の不足から基本的な医学知識が欠如していることが背景にあります。
私たちは、小児がん患者が入院中だけでなく退院後も、正しい知識を身につけ、自分で調べ考える力を養い、健康的な生活を送れるようにするための解決策として、ヘルスリテラシーを向上させる英語のクイズアプリを導入する提案を行いました。この提案は、入院中に子供たちの教育が止まってしまう懸念、ほぼ全ての患者とその家族がスマートフォンを所有している現状、そして医療者が子供たちがSNSばかりに時間を費やすことを心配しているという点を考慮したものであり、共感を得られる内容となりました。

医学系研究科 平出恭我
2024年9月18日から25日まで、カンボジアのジャパンハートこども医療センター(JHCMC)で実施された「ビルドアップ研修」に参加しました。本研修では、デザイン思考を活用し、現場観察による課題抽出から、その解決策を提案するまでのプロセスを行いました。
渡航前の事前ミーティングでは、グループのミッションとして「世界中の人が国によらず、健康と福祉を受けられる医療格差のない世界へ」を掲げ、JHCMCでの研修に臨みました。現地では、患者ならび、その家族の医療リテラシーに関する課題に着目し、「入院中の小児がん患者の医療リテラシーを向上させるためのクイズアプリ」と「退院後のフォローアップを支援するための自動リマインダーシステム」の2つのソリューションを提案しました。
今回の研修は、日本国内での経験とは異なり、カンボジアの歴史的背景や文化、社会や医療に関する制度を踏まえた課題解決が求められました。これにより、解決すべき課題の抽出とその優先順位を付けることの難しさを強く実感しました。日本とは異なる環境での経験を通じて、カンボジアの医療課題はもちろん、日本の医療システムにも新しい視点を持つことができました。特に、限られたリソースの中で最大の効果を発揮するという意識は、人的資源の不足が課題化しつつある日本の医療においても今後重要なテーマになると感じています。
最後に、この貴重な機会を提供してくださったジャパンハートこども医療センターの皆様、未来型医療創造卓越大学院プログラムの皆様、そのほか本研修にご協力いただいた全ての方々に、心より感謝申し上げます。

医学系研究科 小澤 哲
カンボジアにあるJapan Heart Children’s Medical Centerにて、デザイン思考を用いた現場観察による課題抽出からソリューションまでを提案するビルドアップ研修を行なった。
渡航前の複数回のミーティングではチーム全体のビジョン・ミッション作成、カンボジアの経済、政治、医療についての事前調査を行なった。
研修の初日はプノンペン市内の施設見学へ行き、カンボジアの歴史、政治的な背景、現状を学んだ。
Japan Heart Children’s Medical Centerでは医療現場観察と医療従事者からの聞き取りを行い、数十個の事実を観察し、そこからニーズステートメントの作成を行った。そこからスクリーニングを行い、ニーズステートメントを絞り込んだ。観察事実やニーズ、対象者のペインを明確にするために医療従事者へのインタビューを通してニーズステートメントを2つまで絞り込み、ソリューションを考えた。ニーズステートメントは「ジャパンハートで長期入院中の小児患者にとって、入院中だけでなく退院後の健康関連QOLの改善するために、入院中のスマートフォンの代わりとして、楽しくヘルスリテラシーを身につける方法。」、「小児がん退院患者にとって、再発がんの早期発見をするために、最適なタイミングでフォローアップ検診をリマインドする方法 。」を挙げ、それに対して、「クイズアプリを使った英語医療クイズゲームの提供」、「フォローアップ検診に来るべき日時の前後で自動的なリマインドの送付」を現地医療者に対しプレゼンテーションして提案した。
今回の実習を通して、これまでに習ってきたバイオデザインの課題発見・深掘り・解決のプロセスを用いて、これまでのシチュエーションと異なったヒト・モノ・カネが不足する医療現場においてもソリューションを提案し、意見交流することができた。また、開発途上国の医療現場と日本の医療現場を対比することで、日本の医療現場にも応用で来そうな事象についても考えを深めることができた。

歯学研究科 衣川 安奈
カンボジアにあるJapan Heart Children’s Medical Centerにて、デザイン思考を用いたフィールドリサーチ型研修(東北大学未来型医療創造卓越大学院プログラム ビルドアップ研修)に参加した。
今回の研修では、カンボジアの歴史的背景や経済発展状況を学び、Japan Heart Children’s Medical Centerの医療現場を見学した。非政府組織 (NGO)の医療現場という日本とは異なる状況を通じて、課題設定からソリューション提案までのプレゼンテーションを実施した。
市内見学では、カンボジアの歴史や経済発展状況について学んだ。
ポルポト政権による知識人の虐殺が過去にあったことは知識として知っていたが、カンボジア人ガイドの方のお話とともに案内されることで、カンボジアの方がどのように感じているか知ることができた。これは、ネットなどでは探せない・見つけられないものだったので貴重だと思った。
カンボジアは、今年の3月に後発開発途上国からの卒業を勧告された。カンボジアの首都プノンペンの市内は開発が進んでおり、高層ビルやファストフード店、大型ショッピングモールなどが並ぶ街並みが広がっていた。また、電力はソーラーパネルや水力発電で賄われていると聞き、驚いた。しかし、プノンペン市内から見下ろした風景とJapan Heart付近にあるウドン山から見下ろした風景が全く異なっていた。ウドン山付近の風景は、高層ビルなどはなく、道路整備も十分でない状況だった。都会と田舎ですでに経済格差が発生しており、今後もっと格差が広がるのではないかと感じた。公衆衛生を専攻する身として、この格差をいかに抑制していく施策を展開していくのかカンボジア政府の今後に注目したい。
Japan Heartの医療現場見学では、途上国の医療現場・限られた物資でどのように医療を提供していくかを学べた。
印象に残っているインタビューとしては、医療の説明を口頭や書面でしても理解してもらえていない可能性があること、カンボジアには栄養士の資格がないことが挙げられる。治療への理解については、歴史的背景が影響している点、身体の部位の単語がクメール語(カンボジア現地語)にはないことも相まって、困難であると説明を受けた。また、カンボジア人の識字率が低いため、書面での説明はほとんど実施していなかった。半日間栄養士スタッフとともに行動し現場を見学したが、栄養管理の重要性がカンボジアではあまり認知されていないことと、1人の栄養士スタッフが小児患者約30名の栄養管理をしているため負担が大きいことを伝えられた。また小児患者では低栄養(やせ)と肥満が、成人患者では糖尿病や高血圧が問題となっている現状を知り、これから栄養を管理する人材がカンボジアで必要となっていくと感じた。
現場見学を通して、限られたリソース内で対応しているため、小児がんで入院している患者の教育や退院後のフォローアップの評価が十分に行き届かない状態であることが分かった。これらは、人的資源が足りないことによって発生していたため、業務効率の観点から解決策を考え提案した。
以上の経験から、カンボジアの歴史的背景や経済発展状況に対する理解を深めるとともに、医療現場の課題を抽出する能力、それに対する解決策の提案力を養うことができた。

▲Page Top